アメリカ空軍が誇るB-2スピリット爆撃機(B-2 Spirit)。その独特な形状と“ステルス性能”で知られ、敵のレーダーをかいくぐり、長距離から精密爆撃を行うことが可能な戦略爆撃機です。1990年代に初めて実戦配備されて以来、その存在はアメリカの空軍力を象徴するものとして世界中に知られるようになりました。
では、日本にもこのB-2爆撃機が「ある」のか、あるいは「飛来することがある」のか。この記事ではその真相を掘り下げていきます。日米同盟の実態や、B-2が象徴する米国の対アジア戦略とも絡めて考察していきましょう。
まず結論から言うと、B-2爆撃機は日本国内に配備・常駐していません。B-2はアメリカ本土(ミズーリ州のホワイトマン空軍基地)に配備されており、極めて高度な戦略資産として扱われているため、海外の基地に常駐することはありません。
これは単に運用上の都合というだけではなく、米軍の核戦力に関する厳格な管理体制や外交的バランスの問題とも深く関係しています。また、日本国内の世論や非核三原則などの制約も無視できない要素です。
ただし、例外的に日本の米軍基地にB-2爆撃機が飛来することはあります。実際、以下のような事例が報道されています。
年 | 飛来先 | 備考 |
---|---|---|
2005年 | 嘉手納基地(沖縄) | 北朝鮮を牽制するための訓練の一環 |
2020年 | 三沢基地(青森) | 日米共同訓練での一時展開 |
2022年 | 横田基地(東京) | 極めて短時間のタッチアンドゴー訓練 |
これらはいずれも短期間の滞在や訓練目的であり、恒久的な配備ではありません。特に2020年以降は、インド太平洋地域の安全保障情勢の緊迫により、戦略爆撃機のプレゼンスがより頻繁に示されるようになっています。米空軍が「ダイナミック・フォース・エンプロイメント(D-FE)」と呼ぶ柔軟な展開戦略の一環として、日本の基地が活用されているのです。
B-2はステルス性能と核兵器運用能力を持ち、アメリカの“最終兵器”とも言える機体です。保守・整備のための特殊設備が必要であり、これらはすべてホワイトマン空軍基地に集中しています。特に特殊塗料のメンテナンスや被覆素材の管理は、現地以外では行えない仕組みになっています。さらに、搭載されている電子戦装置や航法システムの管理も極めて機密性が高く、国外での整備にはリスクが伴います。
B-2は遠距離飛行能力を備えており、アメリカ本土から直接、世界中の目標に攻撃を加えることが可能です。そのため、わざわざ海外に配備する必要がありません。事実、過去にはミズーリから中東への往復任務を空中給油だけでこなした事例もあります。このように、本土から即時に打撃を与える能力こそが、B-2の最大の戦略的価値でもあります。
B-2は核兵器を運用可能な機体であるため、日本への常駐は非核三原則や周辺諸国への配慮といった政治的理由からも避けられています。仮に日本に核運用可能機が配備されれば、日中・日韓関係や国内世論への影響も甚大です。また、国会の議論や市民団体の反発も予想されるため、アメリカとしても慎重な対応を求められています。
B-2が日本に飛来することは、軍事的メッセージ性が極めて強い行為です。
こうした意味合いを持つため、B-2の飛来が報道されると周辺国が敏感に反応することも多いのです。2020年の三沢基地での訓練時には、中国の国営メディアが即座に反応し「軍事的挑発」と評したことも記憶に新しいでしょう。
また、日本の防衛省関係者の中には「B-2のようなプレゼンスが、日本の抑止力強化につながる」と肯定的に捉える向きもあり、国際政治における“見せる力”の重要性が強調されています。