選択的夫婦別姓の問題点

～制度導入に伴う懸念と根強い社会的偏見を整理～

「結婚しても姓を変えたくない」「仕事上の実名使用を維持したい」「アイデンティティを大切にしたい」――こうした思いに応える形で注目されているのが「選択的夫婦別姓制度」です。しかしながら、制度導入には賛否両論があり、導入を巡っては法律・文化・心理面からの複雑な議論が交わされています。

本記事では、選択的夫婦別姓制度の概要とともに、主に反対派や慎重論から指摘される具体的な選択的夫婦別姓の問題点・社会的懸念・心理的ハードルを総合的に解説します。

🔎選択的夫婦別姓とは？

現行の日本民法第750条では、婚姻した夫婦は「夫または妻のいずれかの氏を称する」必要があり、必ず同姓にしなければなりません。実際には94％以上の夫婦が「夫の姓」に統一しているのが実情です。

「選択的夫婦別姓」とは、夫婦が同姓を選んでもよいし、各自の旧姓を保持してもよいという、自由な選択を認める制度です。あくまで「選択可能」にするものであり、同姓を希望する夫婦に対して何かを強制するわけではありません。

この制度は特に女性の社会進出・職業的アイデンティティの尊重・国際結婚の多様化といった現代的ニーズに応えるものであり、国連の勧告や海外の制度との整合性からも注目を集めています。

ではどのような選択的夫婦別姓の問題点があるのでしょか？

⚠️選択的夫婦別姓に対する問題点・懸念

制度の自由度が高まる一方で、主に保守的価値観や制度設計上の懸念から、選択的夫婦別姓には以下のような問題点が指摘されています。

1. 👶 子どもの姓の取り扱い

• 別姓夫婦が子をもうけた場合、「どちらの姓を子に与えるか」を決める必要があります。これが親同士の対立要因になるとの懸念も。
• 家族内で姓がバラバラになることで、「親子の絆が感じられない」「第三者から家族関係がわかりにくい」などの社会的誤解を招く恐れもあります。
• 子どもが学校や地域社会で「なぜ両親と姓が違うのか」と問われ、精神的ストレスを感じる可能性も指摘されています。
• 法律上は一度姓を決めれば基本的に変更できず、将来その子が結婚して姓を選ぶ際にも問題が複雑化する懸念があります。

2. 🏠 戸籍制度との整合性の問題

• 日本の戸籍制度は、家族単位で一つの姓を共有することを前提として作られています。
• 別姓夫婦がそれぞれの戸籍に入るようになると、「夫婦は同一戸籍」という原則が崩れ、戸籍事務や書類整備が大幅に複雑化することが予測されています。
• これに伴い、自治体のシステム改修、書式の見直し、窓口業務の再教育など、行政コストや実務負担の増加も問題視されています。
• また、戸籍情報が異なることで、相続や親権、財産登記における確認手続きが煩雑になる可能性も否定できません。

3. 📜 伝統・文化との衝突

• 日本社会では「結婚とは家に入ること」という観念が強く、「同姓」はその象徴とされています。
• 特に地方や年配層では、名字を分けることに対して「家を分断する」「家庭崩壊の引き金になる」といった感情的な反発があります。
• 仏壇の位牌や墓の名字問題、慶弔時の表書きなどでも混乱が生じる懸念があり、文化的儀礼との衝突も想定されています。
• また、祖父母世代からの強い反対が、家族内の不和や嫁姑トラブルにつながる可能性も現実的な課題です。

4. 💼 職場や社会における手間と混乱

• 書類上で名字が違う夫婦に対し、本人確認や証明書類の照合が必要になり、職場や病院・学校などでの確認作業が煩雑になるという意見があります。
• 保険証や銀行口座、子どもの入園・入学手続きなど、日常的な場面で細かい説明が求められるケースも増えると予測されています。
• ただし、通称使用や事実婚によって姓が異なる夫婦もすでに一定数存在しており、「制度が整っていないことで逆に非公式対応が横行している」という指摘もあります。

5. 🧠 「選択」と言いつつ、事実上の同調圧力に？

• 別姓を選んだ場合、「なぜそんな選択を？」「夫婦仲が悪いのか？」といった詮索や誤解にさらされる可能性があります。
• 一方で、別姓を選ばなかった側が「意識が低い」「女性の権利を軽視している」と批判的な目で見られる懸念もあり、いわば「選択が強要される」事態になる可能性もあります。
• 「多様性の尊重」とは裏腹に、空気的な選択圧力が新たなストレスを生む構造になってしまうのではないかと疑問視されています。

6. 💔 夫婦の絆が弱いと見られる恐れ

• 一部の人々は、姓を共有しないことを「距離感がある」「夫婦の結束が弱い」と捉える傾向があり、偏見が根強く残っています。
• 特に結婚式や法事など親族が集う場では、「なんで名字が違うの？」「本当に夫婦なの？」という疑念を口にされることも実際に報告されています。
• このような反応にさらされることで、当事者に精神的負担や葛藤を強いることも問題視されています。

7. 👀 周囲から「変わった夫婦」と見られる可能性

• 日本社会では未だに「同姓＝普通の夫婦」という認識が強く、別姓を選ぶ夫婦に対して「変わっている」「こだわりが強い」とレッテルを貼られることもあります。
• 保育園や地域活動など、親同士の付き合いの中で姓の違いが話題になったり、距離を置かれたりするリスクも無視できません。
• このような環境下で「波風を立てたくない」という心理が働き、別姓を選びたくても選べない空気が形成されているとも言われています。

🌍国際的な視点と今後の課題

• 世界各国ではすでに選択的夫婦別姓や氏名の自由化が進んでおり、女性の地位向上や個人の尊重という観点から広く導入されています。
• 国連女性差別撤廃委員会（CEDAW）は、日本の現行制度が「結婚によって女性が姓を失う構造」を固定化していると指摘し、制度見直しを繰り返し勧告しています。
• 韓国では2005年に事実上の別姓制度を導入し、夫婦が同姓になることはむしろ少数派となっています。アメリカや欧州諸国でも、名字を自由に選択・合成できる仕組みが整備されています。
• 一方で、日本国内では価値観の多様性に対する受容がまだ十分とは言えず、社会制度と国民感情のギャップが制度導入の障壁となっているのが現状です。

✅まとめ：制度の導入には“意識改革”も必要

選択的夫婦別姓制度は、単なる法制度の問題にとどまらず、家族のかたち・社会の価値観・個人の尊重という広い文脈に関わっています。

主な選択的夫婦別姓の問題点、懸念点を改めて整理すると：

• 子どもの姓の決定とその影響
• 戸籍制度との整合性の欠如
• 伝統的家族観との摩擦
• 実務的な煩雑さと社会的混乱
• 選択の自由に見える同調圧力
• 絆や信頼への誤解と精神的負担
• 周囲の偏見や孤立への懸念

これらを踏まえると、制度導入の前提として、丁寧な法整備・社会教育・公的支援の枠組み構築が不可欠であることがわかります。

制度だけでなく、人々の意識や文化的土壌もあわせて整えていくことで、真に自由な選択が可能な社会に近づくのではないでしょうか。