中東情勢を語るうえで、避けて通れないのが「イスラエルとイランの対立のきっかけ」です。2025年6月の空爆を含む一連の緊張は、数十年にわたって積み重ねられてきた対立の結果であり、宗教、地政学、民族、そして国家戦略が複雑に交錯した問題です。両国間の対立は一朝一夕で始まったものではなく、長期にわたり地域秩序を揺るがす要因となってきました。
今回のイスラエルによるイランへの攻撃、それに対してのイランの報復と両国は戦争状態となりました。なぜ戦争に至ったのか、イスラエルとイランの対立のきっかけは何であったのかと思われる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、両国の対立の発端とその深層にある歴史的経緯を、時系列的にわかりやすく整理し、国際社会への影響も踏まえながら解説します。
信じがたいことかもしれませんが、イスラエルとイランはかつては協調的な関係を保っていました。1948年のイスラエル建国後、イランは中東のイスラム国家の中で早い段階からイスラエルを事実上承認。外交関係は非公式ながらも存在し、特に冷戦時代にはアメリカを共通の友好国とする立場から、安全保障や経済、情報共有の面で連携していました。
イスラエルにとって、イランはアラブ世界とは異なるペルシャ系の非アラブ国家として、協調の余地がある存在でした。ところが、この関係は1979年のイラン・イスラム革命により根底から覆されます。イスラエル・イランの対立のきっかけとなる出来事があったのです。
1979年、パーレビ国王の専制支配に対する国民の不満と、宗教指導者ホメイニ師を中心とした運動により、イランは大規模な革命を経験。王制は崩壊し、反米・反イスラエルを掲げるイスラム共和国が成立しました。
ホメイニ師を中心とする新政権は、イスラエルを「不正義と侵略の象徴」として糾弾。外交関係は即座に断絶され、以降イランはパレスチナ問題を国是とし、イスラエルの国家としての正当性を一切認めない姿勢を貫いています。
この革命によって、単なる政治的対立にとどまらず、宗教的・イデオロギー的敵対関係が両国間に根付きました。特に、イランがシーア派イスラムの旗手として宗教的影響力を広げる中で、ユダヤ教国家であるイスラエルとの根本的な価値観の対立が鮮明になります。
直接戦争に至ることは避けつつも、イランはイスラエルに対する軍事的圧力を「代理勢力」を通じて行使するようになります。代表的なのが、レバノンのヒズボラ、そしてパレスチナのハマスへの支援です。
これらの武装組織は、イスラエルに対するロケット攻撃やトンネル侵入などを通じて不安定化を図り、イランは資金、武器、訓練といった支援を提供することで実質的な「前線」を維持しています。
イスラエルはこれに対抗し、シリア・レバノンでの空爆や特殊作戦、サイバー攻撃を駆使してイランの影響力を削ごうとしています。この構図は、直接戦火を交えないままでも、断続的な戦闘が継続する「非対称戦」の典型です。
2000年代に入り、イランが核開発を進めているという疑惑が国際社会で浮上します。イラン側は「平和的原子力利用」を主張していますが、イスラエルを含む西側諸国は、これが核兵器開発の隠れ蓑ではないかと強く懸念。
ウランの高濃縮、遠心分離機の拡充、軍事転用可能な技術の取得が明らかになるたび、イスラエルは「国家の存亡に関わる脅威」として警戒を強めました。
この流れの中で、イスラエルは「Begin Doctrine(敵対国家に核を持たせない)」に基づき、先制攻撃の必要性を繰り返し示唆。1981年にはイラクの原子炉を、2007年にはシリアの核施設を空爆した前例があり、イランも例外ではないと示されてきました。
この対立は単なる二国間の問題ではなく、国際社会全体を巻き込む安全保障上の大問題です。
IAEA(国際原子力機関)はイランの核活動の監視を継続していますが、立ち入り制限や検証拒否などにより実効性を欠く場面も増え、懸念は強まる一方です。
2025年6月、イスラエルはイランの複数の核施設に対し、サイバー攻撃と航空戦力を併用した大規模な先制攻撃を実施。ナタンズ、フォルドー、パルチンなどの主要拠点が標的とされました。
これに対しイランは、革命防衛隊(IRGC)を中心に、イスラエル本土への報復として大量のドローン・弾道ミサイルを発射。戦闘は中東各地に波及し、レバノン・シリアでもヒズボラとの戦闘が激化しています。
国連安保理は緊急会合を開き、各国は即時停戦を呼びかけていますが、今のところ決定的な調停には至っていません。
視点 | 内容 |
---|---|
歴史的背景 | 1979年のイスラム革命が決定的分岐点 |
宗教・思想 | シーア派イスラム主義とユダヤ国家の根源的対立 |
代理勢力 | ヒズボラ・ハマスを通じた間接攻撃の継続 |
核問題 | Begin Doctrineに基づくイスラエルの攻撃正当化論 |
国際構造 | 米欧 vs 中露を巻き込んだ多国間対立構造 |
2025年の衝突 | 空爆・ミサイルの応酬により戦争状態に突入 |
「イスラエルとイランの対立のきっかけ」は、単なる外交問題ではありません。宗教的信条、地域覇権争い、国際秩序の転換をも内包する深層構造を持ち、今後の世界秩序や安全保障環境を左右する重大な要素です。
引き続きこの情勢には国際社会の注視が必要であり、日本を含めた平和外交の可能性がどこまで機能するかが問われています。
年 | 出来事 |
---|---|
1948 | イスラエル建国、イランが事実上承認 |
1979 | イラン・イスラム革命により外交断絶 |
1981 | イスラエルがイラクの原子炉を空爆(Begin Doctrine) |
2006 | 第二次レバノン戦争(ヒズボラとイスラエルの大規模衝突) |
2015 | イラン核合意(JCPOA)締結 |
2018 | 米国がJCPOAを離脱、制裁再開 |
2023 | イランが核開発を加速、緊張再燃 |
2025 | イスラエルがイラン核施設を空爆し戦争状態に |
A. イスラエルは国土が狭く、核兵器が使用されれば国家存続に直結するため、イランの核保有は「実存的脅威」とみなしています。過去にも敵対国の核施設を先制攻撃した前例があり、イスラエルは抑止ではなく未然防止を重視しています。
A. ヒズボラはレバノンを拠点とするシーア派武装組織、ハマスはパレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム主義組織です。両者とも反イスラエルを掲げ、イランはこれらに資金や武器、訓練などを提供して代理戦争を展開しています。
A. 主にエネルギー価格の高騰や中東航路の安全保障への影響が考えられます。イランは日本の原油輸入元の一つであり、ホルムズ海峡の封鎖や不安定化は日本経済に大きなリスクをもたらします。
A. 国連や欧米諸国は即時停戦を呼びかけ、外交的解決を模索していますが、イスラエルとイランの相互不信が強く、調停は難航しています。一部の国々は非難声明や制裁強化などで関与しています。
A. 双方が全面戦争を避ける意図を持っているとの見方もありますが、報復の連鎖や偶発的衝突が拡大すれば、より大規模な戦争に発展する恐れも否定できません。地域情勢は今後数週間が極めて重要な分水嶺となります。