フランス語で「mariage blanc(マリアージュ・ブラン)」という言葉があります。直訳すると「白い結婚」ですが、実はその言葉には見た目とは異なる深い意味が込められています。
マリアージュ・ブランとはどういう意味なのでしょうか?
本記事では、「mariage blanc」(マリアージュ・ブラン)の本当の意味や由来、使われ方、そして文化的背景に至るまでを、さまざまな角度から掘り下げてご紹介します。
「blanc(ブラン)」はフランス語で「白」を意味しますが、ここでは「空白」や「無色」「何もない状態」といった象徴的な意味で使われています。つまり、結婚という形式は整っていても、肉体的関係や実際の夫婦としての結びつきが存在しない、いわば“空虚な結婚”を表す言葉が「マリアージュ・ブラン」なのです。
この言葉はフランス社会では一定の認知度があり、映画や文学作品などでもしばしば登場します。
最も典型的で実務的な意味での「mariage blanc」は、移民やビザ取得を目的とした偽装結婚です。恋愛感情や家庭を築く意志がまったくない状態で、国籍取得や滞在許可証の取得を目的として書類上だけの結婚をするケースがこれに該当します。
フランスをはじめとしたヨーロッパ各国では、こうした結婚が増加し、国家による厳しい監視や調査対象となることもあります。市役所での面談、同居実態の確認、周囲からの証言の収集などが行われることもあります。
📝 例:「彼はヨーロッパに滞在するためにマリアージュ・ブランを選んだ。」
第二に、「マリアージュ・ブラン」は当事者間の合意による非性的な結婚生活を指すこともあります。これは、結婚当初から性的関係を持たないことを前提にした場合や、途中からセックスレスの状態となり、それが継続しているカップルを含みます。
宗教的な信念、LGBTQ+当事者同士の協力関係、健康上の理由、精神的なつながりの重視など、多様な背景がこの選択を支えています。現代社会における“新しい家族の形”としても注目されており、法的には問題がないものの、周囲に理解されにくい場合もあります。
📝 例:「二人はお互いを支え合うためにマリアージュ・ブランを選んだ。」
第三のマリアージュ・ブランのシナリオは、周囲の目を意識した形式的な結婚です。社会的な期待や家族からのプレッシャーにより、実際には恋愛感情も性的関係もないにもかかわらず、外向けには結婚という形式をとるケースです。
日本やアジア圏でも、世間体を重んじる文化の中でこうしたマリアージュ・ブランに近い関係が見られることがあります。とくに、キャリアや家柄を考慮しての“名目的な結婚”は、当人たちの心理的負担となることも。
📝 例:「家族に安心させるためにマリアージュ・ブランを選んだが、今は別々の生活をしている。」
日本語にも「偽装結婚」「セックスレス」など、類似する表現は存在しますが、「mariage blanc」のように一語で性的関係の欠如や形式的な結婚を包括的に表す言葉は、あまり一般的ではありません。
また、文化的な背景として、フランスでは結婚制度自体が宗教的・法律的に厳密でありながらも、個人の自由を尊重する傾向が強いため、「性的関係のない結婚」という形態にもある種の“選択の自由”が認められている面があります。
一方、日本では「白い結婚」と直訳しても意味が伝わらないため、翻訳や紹介の際には文脈の説明が必要になります。文化・社会観念の違いを理解する上でも、興味深い言葉といえるでしょう。
フランスでは、「mariage blanc」が国家に対する欺瞞行為と見なされた場合、移民法や民法に基づいて処罰の対象となることがあります。具体的には、罰金刑や国外追放、結婚無効の手続きなどが課される可能性があります。
一方で、当事者間の合意に基づくプラトニックな結婚は、法的には全く問題がありません。むしろ、婚姻関係の内容や形は個人の自由であり、外部から干渉されるべきものではないという立場が一般的です。
フランス政府はこれを踏まえつつ、偽装結婚を見抜くための慎重な審査体制を導入しており、結婚の成立後もしばらくは監視されるケースもあります。
「mariage blanc」はフランス語の表現ですが、実は世界中で類似の現象は存在しています。たとえば英語圏では「sham marriage(偽装結婚)」や「marriage of convenience(便宜結婚)」といった表現があり、状況によっては犯罪とされる国もあります。
また、イスラム諸国では宗教的な制約から男女が自由に交際できないため、名目的な結婚を経て関係を深めるという文化的背景もあります。「マリアージュ・ブラン」は、国や地域によって異なる家族観・結婚観を映し出す鏡ともいえるでしょう。