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ドラッグロスとは

ドラッグロスとは

 

**ドラッグロス(Drug Loss)**とは、欧米などで既に承認・使用されている医薬品が、日本では開発すら始まっておらず、患者が利用できない状態を指します。これは、医薬品の「未承認」状態の中でも、企業が日本での開発を予定していないケースを特に指し、近年、医療現場や政策の場で大きな問題として注目されています。

医薬品の研究開発には多額の費用と時間がかかるため、製薬企業は利益が見込める市場を優先する傾向があります。そのため、日本では患者数が少ない希少疾患や、治療薬の価格設定が難しい分野では、企業が開発に踏み切らないことが多くあります。これが結果として、海外で既に使用されているにもかかわらず、日本では使用できないという「ドラッグロス」の発生につながっています。

このドラッグロスの問題は、単に医薬品の有無というだけでなく、日本における医療の質、患者のQOL(生活の質)、さらには国際的な医療格差という観点からも深刻な影響を及ぼすため、非常に重要な課題と位置づけられます。


ドラッグロスの現状と統計

厚生労働省の2023年3月の報告によると、欧米で承認されているが日本では未承認の医薬品は143品目あり、そのうち86品目(約60.1%)が国内での開発が未着手、つまりドラッグロスの状態にあります。

これらの86品目の中には、希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)や小児用医薬品が多く含まれており、特に患者数が少ない疾患に対する治療薬が日本で利用できない状況が続いています。これは治療の選択肢を大きく制限する要因となり、国内の医療の質にも深刻な影響を与えています。

さらに、医師が海外の研究やガイドラインを基に治療を行おうとしても、国内で薬剤が承認されていないために、十分な治療ができないという現場の悩みも多数報告されています。患者の側から見ても、情報社会の現代では、海外での治療実績を知ることは容易であり、「なぜ日本では使えないのか?」という疑問と不信を招くことにもなります。

また、近年はSNSやインターネットの普及により、世界中の治療情報が簡単に手に入るようになりました。これにより、患者の間では「日本だけ取り残されているのではないか」という感覚が強まっており、医療への不信感や制度への批判にもつながっています。


ドラッグロスが生じる主な原因

1. 日本市場の魅力低下

日本の医薬品市場は、薬価制度の影響で市場規模が縮小傾向にあります。薬価の引き下げや市場の成熟により、製薬企業にとって日本市場の魅力が低下し、新薬の開発や導入が遅れる要因となっています。

加えて、日本では定期的な薬価改定があり、企業にとって収益が不安定になる可能性があることも参入障壁となっています。利益率が高くなりにくい市場であるため、特に資金に余裕のない中小のベンチャー企業にとっては、日本への展開を検討すること自体が難しい場合があります。

日本の高齢化社会において、医療費抑制の観点から薬価の引き下げが繰り返される中、新薬に対する適切な評価が行われにくくなっているという声もあります。これにより、革新的な治療法が市場に届きにくくなっているのが現状です。

2. 承認プロセスの複雑さ

日本では、医薬品の承認に際して日本人を対象とした臨床試験が求められることが多く、これが開発のハードルとなっています。特に、国際共同治験に参加する際にも、日本独自の第1相試験が必要とされる場合があり、開発の遅れやコスト増加の原因となっています。

また、規制や審査の透明性、予見可能性の低さも課題とされています。海外と比べて審査期間が長くなることや、申請要件が多岐にわたることが、企業の負担となり、開発を敬遠させる要因のひとつになっています。

規制改革が進まないことで、グローバル基準から取り残され、企業にとって「日本だけ別対応が必要」という印象を与えることも問題視されています。

3. ベンチャー企業の参入障壁

新薬の多くがベンチャー企業によって開発されていますが、これらの企業は資金やリソースが限られており、市場規模の大きい欧米市場を優先する傾向があります。日本市場への参入は、規制の複雑さや市場の不確実性から敬遠されがちです。

加えて、日本語による文書提出や、日本独自の申請手続きが求められることも参入のハードルとなっています。グローバルな標準から逸脱した制度が、結果として日本市場を孤立させ、ドラッグロスを招いている側面があります。

ベンチャー企業にとって、日本の規制に対応するために追加で人材やコンサルティングを投入するコストは大きく、費用対効果が見込めない場合がほとんどです。


ドラッグロスが患者に与える影響

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ドラッグロスにより、患者は最新の治療法へのアクセスが制限され、治療の選択肢が狭まることになります。特に、希少疾病や小児疾患の患者にとっては、海外で承認されている有効な治療薬が利用できないことが、生命や生活の質に大きな影響を及ぼします。

また、一部の患者は「未承認薬個人輸入」や「治験参加」などの手段を選ばざるを得ない状況となり、自己負担が大きくなるだけでなく、安全性や有効性の保証が不十分な状態での治療に踏み出すリスクも背負っています。医療格差や経済格差の問題とも絡み、社会全体としての公平な医療アクセスが損なわれる恐れがあります。

さらに、家族が国外での治療を検討するケースや、寄付やクラウドファンディングを通じて海外治療を目指す例も増加しており、日本の制度の限界が可視化されるようになっています。


解決に向けた取り組み

1. 規制の見直しと迅速化

厚生労働省は、ドラッグロス解消に向けて、未承認薬の情報を整理し、医療上の必要性が高いと判断された品目については、企業への開発要請を行うなどの取り組みを進めています。

2024年には、「未承認薬・適応外薬検討会議」の体制が強化され、特定の疾患や分野における未承認薬をリスト化し、透明性の高いプロセスで開発が促される仕組みづくりが行われています。

また、早期承認制度の拡充や、条件付き早期承認制度の活用促進なども検討されています。患者への迅速なアクセス確保と企業のインセンティブ向上を両立させるための工夫が求められています。

2. 国際共同治験の推進

国際共同治験への参加を促進し、日本人対象の第1相試験を原則不要とする方針が示されるなど、承認プロセスの簡素化が進められています。これにより、海外での開発と同時に日本でも治験を進めることが可能となり、承認までの時間短縮が期待されています。

さらに、日本語以外での申請資料の提出を認めるなど、手続きのグローバル化も進行中であり、企業の参入しやすさを高める取り組みも始まっています。

治験ネットワークの整備や、患者登録制度の強化、病院間の連携体制の構築など、治験の質とスピードを高める環境整備も重要です。

3. 希少疾病用医薬品の指定要件の緩和

希少疾病用医薬品の指定要件を見直し、より多くの医薬品が指定を受けられるようにすることで、開発のインセンティブを高め、ドラッグロスの解消を図る動きが進められています。

この指定を受けることで、開発費の助成、優先審査、開発支援などの恩恵を受けられ、企業にとっては大きなメリットとなります。特に希少疾患や小児領域でのドラッグロス解消に向けた鍵となる政策です。

また、患者団体との連携を強化し、現場のニーズに即した薬剤の指定や導入を進めることも、効果的な対応策のひとつと考えられます。


まとめ

ドラッグロスは、日本の医療制度や市場の構造的な課題が複雑に絡み合って生じている問題です。患者が必要とする治療薬を迅速に届けるためには、規制の見直しや市場環境の改善、国際的な連携の強化が不可欠です。今後も、官民一体となった取り組みが求められます。

同時に、患者の声を反映させる仕組みや、治療の選択肢を可視化する情報公開の強化なども重要な施策です。日本の医療がグローバルな治療水準に追いつくためには、制度の柔軟性とスピード感が問われています。

ドラッグロスを防ぐことは、単なる医薬品の供給問題ではなく、人命や健康を守る社会全体の使命であるという視点が求められています。

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