医療の世界では、個々の医師の技術や判断が患者の命に直結することも珍しくありません。今回は、赤穂市民病院で数々の医療事故に関与し、2024年に業務上過失傷害罪で在宅起訴された脳神経外科医・松井宏樹氏の経歴を、時系列に沿って詳しく解説します。
松井氏は、2013年10月から2017年3月まで、千葉大学大学院理学研究科で教授職を務めていました。この期間は、教育・研究の分野で活躍していたことを示しており、臨床医としてのキャリア以前にアカデミックな実績を積んでいたと考えられます。
この経験は、後の臨床現場でも一定の専門的視点をもたらした可能性があります。特に研究者としての視点を持つことで、標準化された治療法への理解や、文献に基づく医療判断などにおいて貢献していた可能性もあります。
2016年には、済生会滋賀県病院の脳神経外科医として勤務していたことが学会記録から明らかになっています。「延髄外側海綿状血管腫」に関する学会発表では筆頭著者を務めており、専門的な症例への関与と発表実績が確認されます。
同時に、この時期の松井氏は、学術と臨床の両面を兼ね備えた医師として評価されていた可能性もあり、研究成果を臨床に活かすことを期待されていたとも考えられます。
日本神経内視鏡学会の資料からは、八尾徳洲会総合病院に所属していた形跡も見られます。複数の病院での勤務経験は、臨床技術の多様化や症例対応力の強化に寄与したと考えられます。
さらに、この時期に行った発表は、脳内出血に対する顕微鏡下小開頭血腫除去術という極めて高度な技術を伴う手術内容であり、松井氏が専門領域での実績を積んでいたことを示す重要な証拠とも言えるでしょう。
兵庫県赤穂市の基幹病院である赤穂市民病院に勤務を開始。2021年8月に自己都合で退職するまで、約2年間勤務しました。
この病院は地域の中核医療機関であり、脳神経外科は命に関わる高度な医療技術を必要とする分野でもあります。松井氏が同病院で果たした役割は決して小さくなかったと考えられます。
着任から約8ヶ月の間に、8件の医療事故が発生。うち2件で患者が死亡、6件で後遺症が残るという深刻な結果を招きました。
これらの事故の発生頻度とその深刻さは、一般的な医療水準から見ても異常な事態と評価され、病院側にも大きな衝撃を与えました。
特に注目されたのは、70代女性に対する脊柱管狭窄症の手術で、誤って神経を切断し、両足麻痺の後遺症を負わせた事件です。この件が後の刑事起訴の大きな根拠となります。
被害者の身体的・精神的苦痛は計り知れず、その家族にも大きな影響を与える結果となりました。
事故多発を受けて、当時の病院長は松井氏に対し手術や侵襲的検査の実施を口頭で禁止しました。
この指示は、患者の安全を最優先にした病院側の緊急的措置と見られますが、その後の動きから、実効性に乏しかったことが明らかとなります。
しかしその後も12件の侵襲的医療行為を継続した疑いがあり、病院は文書での手術禁止命令を再発令。それにもかかわらず、同年12月にも侵襲的検査を行っていたとされています。
この段階で病院の内部監査やコンプライアンス機能が適切に機能していたかどうかが強く問われることとなりました。
上記の女性の手術における過失により、在宅起訴されました。止血処置の怠慢や、神経の誤切断などが争点となり、外科医からは**「手術手技に疑問を抱かせる内容」**との証言も。
裁判では松井氏本人の主張と、第三者医師による証言との対立が大きな焦点となるでしょう。
松井氏は過失を否定し、「上司に急かされたこと」と「切れ味の鋭すぎるドリル」を理由に挙げています。
2019年以降に連載された医療漫画『脳外科医 竹田くん』が、赤穂市民病院の事案と酷似しているとSNSで話題に。漫画の登場人物やエピソードが実在の関係者と重なるとして、**「内部関係者による告発では?」**という憶測も広がりました。実はこの漫画、手術ミスにあったという女性の親族が被害を広く訴えるために連載したもの。
読者の間では、漫画を通じて医療ミスの深刻さを再認識する声も上がっており、現代社会における表現と現実の接点についても議論が巻き起こっています。
この件に関して、病院側と赤穂市長は「コメントを控える」としており、真相の解明が注目されています。
この沈黙が意味するのは、情報管理の徹底か、もしくは漫画内容に事実との接点があることへの懸念か、いずれにせよ市民の関心は高まり続けています。
年月 | 出来事 |
---|---|
2013年10月〜2017年3月 | 千葉大学大学院理学研究科 教授 |
2016年 | 済生会滋賀県病院 脳神経外科医 |
(時期不明) | 八尾徳洲会総合病院に勤務か |
2019年7月 | 赤穂市民病院に着任 |
2019年7月〜2020年3月 | 8件の医療事故が発生 |
2020年1月 | 女性患者の神経切断事故発生 |
2020年3月 | 手術停止の口頭指示 |
2020年10月 | 文書での再指示 |
2020年12月 | 指示に反した医療行為の継続 |
2021年8月 | 赤穂市民病院を退職 |
2024年9月 | 民事裁判での証言 |
2024年12月27日 | 業務上過失傷害罪で在宅起訴 |
松井宏樹氏は、教育・研究畑から脳神経外科医に転身し、複数の病院で勤務を重ねてきましたが、赤穂市民病院での一連の医療事故とその後の法的責任により、社会的に大きな注目を集める存在となりました。
この事例は、一人の医師の技量や意識の問題にとどまらず、病院の管理体制、組織的な監視の弱さ、さらには医療現場全体の構造的課題を浮き彫りにしています。
また、フィクションとされる漫画作品が事件の真相を暗示している可能性も指摘される中で、医療業界における内部告発や透明性の確保、倫理的な意思決定の重要性についても再考を迫られる事態となっています。
今後の裁判の動向とともに、医療の安全性と透明性について、より深い議論が求められるでしょう。